30代の初めから70代の初めまでおよそ40年間、月刊釣り雑誌に釣行記を連載した。夏場は北へ、冬場は西へ釣行し、その釣りの何日かはほとんど野宿だった。
川原で野宿することが多く、相棒はテントで、わたしは車で寝た。
そして夏場の夜、よく遠花火を見た。何となく夜の川を眺めていると、向こうの土手先で花火が見えることがあった。音がきこえてくるときも、きこえてこないときもあったが、夜の底に明滅する花火を見ているのは気分がよかった。
車のドアを開け放ち、体をよこにして遠花火を眺めていると、遠い記憶を思いだしているような心持ちがしたものだ。
よく思い出すのは、千曲川の砂利川原に車をとめ、きらきら光る流れのはるか向こうの花火を見ていた夜のこと。
そのころはまだ俳句をやっていなかった。
(大崎紀夫)