季節の名句

トマト

子の為に朝餉夕餉のトマト汁 星野立子
完熟のトマトを夕日よりはづす 南うみを
冷蔵庫に冷えゆく愛のトマトかな 寺山修司

20年ほど前になるか、超結社吟行でイタリアへいったことがある。フィレンツェからシエナへ日帰りでいくとき、フロントの係にはエノテカ・ピンキオーレの席を予約しておいてほしいと頼んだ。

シエナから戻り、みなそれなりにめかして集まると、フロントの係は予約は取れませんでした、という。

仕方ないので、わたしの知っているトラットリアにいくことにした。山羊の脳味噌の唐揚げという珍味を出す店で、その店にいくと、客や店の者が一瞬ア然とした顔をした。10何人かが着飾って入ってきたのに驚いたのが分かった。

そしてまず頼んだのが、ミックスサラダでそのトマトを食った多くの人が懐かしいといった。昔のトマトのにおいと味があったからだ。

わたしたちはそのトマトのサラダが大いに気に入り、追加の注文をし、そのにおいと味について話が盛り上がった。ヨモギのにおいがなくなったとか、藷焼酎に藷のにおいがなくなったとか。

そのあと、ピザとかパスタとかを頼んだはずだが、それについてはまったく記憶がない。

(大崎紀夫)